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記録

とある女の子がばんぎゃるになり、ばんぎゃるを上がるまでのお話

桐島、人間やめるってよ。




ハルさんのツイート。





「桐島?」

息を吐くくらいの声量で言葉を漏らした。僕らの住む小さな街を見渡せる小高い丘の上、今にも崩れ落ちそうな程老朽化の進んだ民家の中で何か大きな影が急いで隠れるのがちらりと見えたのだ。もしかしたら熊か何かだろうか。いやそれは考えにくい。ゆっくりとそのオンボロ民家へと近づいていく。僕の意思に反して落ち葉は軽やかな音を一歩毎に周囲へ響かせた。
「くるな!」
まだ若さの残る、よく聞き慣れた声だった。
「桐島。」
「くるな。」
あいつの声で初めて聞く、意思の強い声だった。
「帰ろう、桐島。」
答えはなかった。
「みんな待ってるし、な、ほら、帰ろう。こんなところ寒いし。」
カラスが何度か遠くで鳴いてるのを聞いた後、喉を鳴らすのが聞こえた。
「帰らない。」
予想は出来たはずの答えだった。しかし僕は何通りもの未来を予測して動けるほど大人ではなかった。
「なんで?」
口からこぼしてしまった瞬間僕は後悔した。本人の口から何かしらを言わせようと追い詰める、なんて冷たい言葉だろう。その時街中のスピーカーから安っぽい夕焼け小焼けのメロディが木霊した。無音が途切れて少しばかり心が落ち着くのを感じたが、すぐに五月蝿い位だったメロディの余韻も消えてしまった。もうじき日が暮れる。無意識に僕は急いていたのだろうか。それとも結論が1つ以外どうしても思いつかなかったからだろうか。ゆっくりと口を開いた。
「本当なの?」
「うん。」
いくつも大きな穴の空いた木の板の向こうで、あいつが頷く姿が見えるような気がした。
「もう、戻れないの?」
「うん。」
その返事の声が余りに寂しそうで、聞きたい事は山ほどあったのに全部どこかにいってしまった。見つめる先では夕日が沈み切ろうとしていた。噂は全部、知っていた。全部とはいかなくてもきっと半分位は本当なんだろう。
あいつの名は たくや という。今は何と呼べばいいのか僕には分からないが、たくや とも呼べない自分がいた。2人は友達だった。僕だけが信じた、僕だけを信じた、唯一の友達だった。また遠くでカラスが鳴いた。
「帰ってくれ。」
僕は急に突き放された気がした。あいつは変わってしまってなどいないって、感じたばかりだったのだ。その震える言葉の意味が分からない僕は立ち上がりもせず視線を落とした。その時街はゆっくりと闇に沈んだ。






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